第21回定期演奏会のメインビジュアルについて
第21回定期演奏会のデザインを手掛けてくださった遠藤和紀さんが、メインビジュアルについて解説してくださいました!
今回、フィンランドのシベリウスをメインテーマとするポスター制作の依頼を受け、最初に思い浮かんだのは、やはり湖の風景でした。実際、フィンランドでは湖が国土の約1割を占め、500㎡以上の湖が18万8千もあります。フィンランドのヴァンター空港に近づくと、窓から美しい森と湖の風景が見え、それだけで感動してしまいます。
フィンランドには何度も訪れていますが、「行く」というより「帰る」に近い感覚を抱いています。これは、私が寒い東北地方の出身であることも影響しているかもしれませんが、シベリウスの音楽やマリメッコのテキスタイルデザイン、アルヴァ・アールトの建築などにに強く惹かれているからかもしれません。また、フィンランド人の素朴で温かい人柄や、国の歴史に共鳴する部分も大きいと感じています。
フィンランドは豊かな天然資源を持っているわけではなく、多くのものを輸入に頼らざるを得ない状況ですが、だからこそ「あるもの」「あったもの」に対して深い愛情を持って接する姿勢が強く感じられます。それは生活だけでなく、文化や芸術にも現れています。
さて、今回のこのデザインコンセプトは、フィンランドの清々しい美しさと、空気感です。私はかつてヘルシンキから西に100kmほど行ったフィスカルスという村に滞在したことがありますが、そこには村のサウナがあり、サウナの後には湖で湖水浴をします。そしてその水面から見える風景は、水平線を挟んで上下に青い湖と緑の森。その体験をもとに、「フィンランドの森と湖」を波の反射としてグラフィックデザインで表現しました。下から上へ、青から緑へのグラデーションが見えると思います。
実は、完成した後に思い出したのですが、この白と青と緑のイメージは、今から18年前の雑誌の表紙の記憶だったようです(fg.1)。偶然、フィスカルスに行く前にこの特集があり、買って読んでいました。この表紙にあるのはカミラ・モーベルグのガラスの作品で、もちろん森と湖を表しています。
そして、この波は「11個」あり、これは実は交響曲第2番の1楽章の冒頭の「さざなみ」の数でもあります(fg.2)。曲は湖のさざなみから始まり、様々な自然描写を経て、最後に大いなる「讃歌」へと結実します。このポスターが今日の演奏会の素敵な入り口になってくれれば幸いです。また、演奏会を通してフィンランドの生活や文化に関心を持っていただければなお嬉しいです。
遠藤 和紀(デザイナー/洗足学園音楽大学非常勤講師)
fg.1 フィンランド政府観光局が発行していた雑誌『TORi』の2006年5月号。現在は休刊中。
fg.2 交響曲第2番の冒頭。弦楽器が「ニ長調」の和音を「スラー・テヌート」で奏でる。美しい物語の始まり。